朝クラ
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世界で活躍する音楽家との対談 Vol.3~イラン人指揮者 ファラド・マハニ氏~

こんにちは!イタリア・ミラノ留学中の清水優美(しみずゆみ)です。
今回は、世界で活躍する音楽家との対談シリーズとして、イラン人指揮者のファラド・マハニさんにお話を伺いました。
マハニさんは、イランでフラメンコギターをきっかけに音楽をはじめ、その後クラシック音楽に目覚めて、指揮者の道を歩み始めたそう。イタリアの音楽院で留学後、イタリア国内の数々のオーケストラでご活躍中です。
強い志とともに移住したイタリアで、大変アクティブに活動されるマハニさん。イラン、イタリアでの音楽の勉強、仕事のことや、満を持して設立した新しいオーケストラのことなど、お話を伺いました。

 

©MarcoBorrelli-Mandela Forum, Florence

(対談は、2021年4月11日にオンラインで行いました。)

 

-今回はインタビューをお引き受けくださってありがとうございます!
こちらこそ、ありがとうございます。

 

-早速ですが、最初のご質問です。音楽を始めたきっかけは何でしたか?
他の音楽家に比べて遅いスタートだったのですが、17歳の時にギターを始めたことがきっかけでした。

 

-ギターですか!意外でした。ぜひ詳しくお聞かせください。
はい、でもクラシックギターではなくで、フラメンコギターを勉強し始めました。イランでとても良い先生たちに出会うことができて、私をクラシック音楽の道に導いてくださり、そこから作曲と指揮に熱中していきました。

 

 

-そうなのですね。先生たちとの出会いの後、イランで音楽大学に通われて、イタリアにいらしたのですか?
いえ、イランでの音楽の勉強の多くは、プライベートレッスンでした。イランは、まだ音楽大学のレベルがそれほど高くなかったので、ヨーロッパで経験を積まれた先生に習っていました。
指揮に関しては、レッスンをある程度した後、有名指揮者たちのビデオを見たりして、独学で学びました。カルロス・クライバーとヘルベルト・フォン・カラヤンは、私もですが私たちの世代の音楽家の多くが憧れた指揮者です。それから、イランでオーケストラも設立しました。

 

-オーケストラをご自身で?素晴らしい行動力ですね。
はい、指揮を学ぶためには、理論を学ぶだけでは十分でなくて、実践が必要なのです。このオーケストラでの数々のコンサートの経験は、私にとって大変良い勉強になりましたね。その後、渡伊しました。

 

-イタリアでは、どちらで勉強されたのですか?
そうですね…まずは私がイタリアに来たきっかけをお話したほうがいいかもしれません。2008年にまだイランにいた頃、私の友人の1人が、指揮者のジャンアンドレア・ノゼーダ氏のビデオを送ってくれたのです。当時彼は、トリノのレージョ劇場の首席指揮者で、私はそのビデオを見た後、彼の元で勉強したいと思い、イタリアに来ることを決めました。
2009年にイタリアへ移住して、2011年にトリノで彼に会うことに成功しました。彼からの指導を受ける為にトリノに通いながら、トリノとフィレンツェの音楽院でも勉強しました。

 

-2つの音楽院を卒業されたのですか?
いえ、トリノの音楽院では作曲の勉強をしたのですが、フィレンツェの音楽院での指揮の勉強に集中する為に途中でやめて、フィレンツェの音楽院で卒業しました。

 

-ノゼーダ氏と勉強される為にいらしたイタリア。その後もイタリアで仕事を続けることにしたのは、何か理由があったのでしょうか?
これは難しい質問ですね。イタリアでは、8年間勉強していたので、イタリアですでに人脈が出来ていましたし、他の国でまたゼロからスタートするのは中々大変そうだったからでしょうか。勉強を終えた時、もうすでに30歳でしたから。たとえイタリアに住む上で困難があったとしても、イタリアが好きというのもあります。

 

-そうなのですね!私の周りの音楽家は、イタリアで勉強した後、キャリアのために他の国へ移る方もいらっしゃる印象があるのですが、マハニさんもお考えになったのかなと思いまして。
考えましたね。モーツァルテウム(オーストリア)の指揮のコースに行きたいと思ったこともありましたが、最終的にはイタリアに残りました。指揮者のキャリアを積むには、自分自身の技術力と音楽とは関係のないこと、例えば人脈づくりは、大切なことですね。
それから、仕事を始め出してすぐ、体調が優れなかったこともあって、全力で仕事に集中できなかったこともイタリアに残った理由の1つですね。他の国にいても、イタリアにいても(自分自身の力があれば)どこにいても同じだと思います。

 

-8年間の勉強の後、キャリアをスタートされたとのことですが、特にこれが始まりだった、というコンサートはありますか?
2013年にthe National Arts Awardで優勝したことがきっかけでした。その後、2014年にthe Maggio Musicale Fiorentino (フィレンツェ5月音楽祭)で指揮をした後に、他の仕事が色々と入ってきました。キジアーナアカデミーでディプロマを取得したことも、より多くの人と出会い、キャリアの幅を広げるきっかけになりました。

 

(©Rosalina Garbo- Teatro Massimo di Palermo)

– The Maggio Musicale Fiorentino (フィレンツェ5月音楽祭)で指揮をされたのですね!
はい、客演指揮者として、仕事をしました。あとは、パレルモのテアトロ・マッシモやサンレモのオーケストラ、トスカーナ・クラッシカなど…

 

-少し話題がそれるのですが、イランでのクラシック音楽文化はどのような感じですか?
私もそこまで詳しくはないのですが、素晴らしい音楽の歴史と伝統音楽がありますね。1979年のイラン革命以前は海外の音楽家が、イランで沢山コンサートをしていました。2つ大きな音楽祭があって、Tehran Symphony Orchestra(テヘラン交響楽団)というオーケストラもありました。
革命の後は、海外の音楽家はイランで演奏することは難しくなり、オーケストラはなくなりました。昨今では、若者が新しいプロジェクトを始めたり、オーケストラも設立したりしていますが、レベルの高い音楽学校や大学なしでは、キャリアを始めることは難しいですね。

 

-イランからは、ヨーロッパへ留学に来ている学生はたくさんいますか?
はい、ドイツとイタリアに多くいて、あとはオーストリアやフランスにもいますね。

 

-マハニさんは、将来的にイタリアに残りたいと思われますか?それともイランに戻られたいですか?
うーん…難しい質問ですね。もう12年イランには戻ってないので…。

 

 

-新型コロナもあって、将来をイメージするのが更に難しくなりましたよね。コロナ禍についてもお話を伺いたいと思っていたのですが、マハニさんにとってどのような変化がありましたか?特にコンサートでの演奏面についてお聞きしたいです。
私たち音楽家にとって、聴衆の前でパフォーマンスすることがとても重要で、それができないので辛いですね。(4月のインタビュー当時は、「無観客」コンサートのみ政府から許可されていました。)
このパンデミックによって、社会全体がリセットされ、新しいビジネスモデルとともに(ポジティブな)再出発ができるといいなと思っています。
それでもすでに、多くの音楽家たちが演奏の仕事をやめて、他の仕事を始めてしまっていますからね。このパンデミックは、誰もが予想しなかったことで、(政府からの) サポートが行き届きませんでした。

 

-1回目のロックダウン(2020年3月~5月頃)に加えて、11月からの2回目のロックダウンでも、イタリア政府はコンサートホールや劇場、美術館の閉鎖をすぐ決めましたよね。私個人としては、芸術の国イタリアにも関わらず、このようになったのは大変ショックでした。
政府は、この決定を(関係者目線でない)外部から見て決めました。関係者側は、劇場はマスク着用とソーシャルディスタンスを保っていれば、安全な場所ということも示していましたね。コンサートは継続できたと思います。予想外の出来事でしたから、政府からアーティストへのサポートが十分でなかったと思います。

 

 

-マハニさんは、3月にストリーミングコンサートをされていましたが、どのようなお考えをお持ちですか?生のコンサートと、ストリーミングコンサートで感じられる違いはありますか?
生のコンサートでない時は、(上手くいかなかった部分を)何度も繰り返すことができるので、それは良い部分ですよね。でも、聴衆からのエネルギーが感じられないし、拍手や熱気などもないですから、やはり変な感覚です。

 

-そうすると、やはり生のコンサートの方に戻られたいですか?
うーん…劇場やコンサートホールが閉鎖になっている間は、「オンラインコンサート」もパフォーマンスを続ける唯一の方法になりますが、もちろん生のコンサートの方が良いですね。

 

-最近は、YouTubeやFacebookで様々なオンラインコンサートが視聴できますよね。これまでコンサートに足を運ぶ機会やアートに触れる機会がなかった人も気軽にアクセスできるようになったと思うのですが、マハニさんはどうお考えですか?
私は、この視点からは、そこまで(生のコンサートとの)違いは感じないですね。大切なのは、ストリーミングコンサートでも、企画をしっかりして、良いプログラム選びをすることかなと思います。そうすれば、(ストリーミングコンサートであっても)より多くの人に音楽を届けられますよね。

 

-お客さんと一緒に雰囲気やプログラムを作り上げていくという感じでしょうか?
はい、聴衆の興味を引くようなプログラム作るということですね。今は、(音楽の歴史的に)有名なクラシック音楽の楽曲が多く演奏されていますので、これは私たちにとってはメリットですね。これらのプログラムを演奏するときには、聴衆は楽曲を知っていますから、「演奏を楽しむためのガイド」のようになり、彼らの興味を引くことができるのでは、と思うのです。
自分自身の経験から、今話したようなガイドなしでは、クラシック音楽に触れた機会が少ない人が、夢中になるというのは難しいかもしれません。

 

 

-私もそう思います。時間がかかりますよね。後2つだけご質問させていただきます。昨年設立されたオーケストラContrametric Ensemble(コントラメトリック・アンサンブル)について、詳しくお聞かせください!
アイデア自体は、3~4年くらい前からありました。ノゼーダ先生と勉強している時、私はイタリアやヨーロッパ各国のオーケストラのリハーサルに参加させてもらい、もちろん指揮の良い勉強にはなりましたし、世界の有名なオーケストラやコンサートホール・劇場がどのような仕組みになっているのかを知ることができました。
その後、何度かオーケストラ設立に向けて動き出しましたが、そう簡単には行きませんでした。そうしているうちに、ここトリノで、私のアイデアに共感してくれる素晴らしい音楽家たちと出会い、新しいプロジェクトを生み出すことができました。

Contrametric Ensemble(コントラメトリック・アンサンブル)が行き着くゴールの1つとして、音楽家自身の生活を守るというものがあります。生活をまずは安定させないことには、パフォーマンスに集中できませんからね。
それに加えて、他のオーケストラとは違う何かをしたいとも考えていました。クラシック音楽には、まだまだ演奏されたことのない楽曲がたくさんありますので、それらを私たちが演奏することによって、私たち自身の演奏の経験にもなりますし、このオーケストラのアイデンティティにもなると考えています。

 

またもう1つのゴールとしては、音楽院を卒業しようとしている/した学生のための、キャリアを始める第一歩としての役割を果たしたいと考えています。全ての学生にとって、音楽家としての仕事を探すのはとても難しいですし、ある程度のレベルの高さも必要です。若手はもちろん、中堅の音楽家たちの活躍の場にもなるといいなと思っていますね。

 

-先日Contrametric Ensemble(コントラメトリック・アンサンブル)の初のレコーディングを終えられましたが、いかがでしたか?マハニさんにとっては、記念すべきレコーディングだったと思います。
はい、とても。でも実はこのレコーディングは、これまでの経験の中でも、実行するのが難しかったプロダクションの1つです。特にコロナの真っ只中で企画をやり通すことは挑戦でした。最後の最後まで、様々なトラブルもありましたが、無事終えることができてとても嬉しいです。7ヶ月間あたためてきた企画だったので、感極まりました。

 

-最後に、若い音楽家たちにアドバイスなどがあればぜひ!
難しい質問ですね。私自身もまだ36歳になったばかりなので。

 

-そうですよね、例えば、勉強を始めて間もない学生さんでヨーロッパに来たいと考えている学生さん向けにメッセージはありますか?ヨーロッパ外から来ている外国人にとって、ヨーロッパで生活することは簡単ではなく、勇気がいることですよね。
もしすでに移住することを考えているなら、何をしたいか、どんな勉強をしたいかの明確なプランを持つことが大切かな。海外に1人で住んで、生活をしていくのは簡単ではないですからね。だから決断すること、そして将来に向けてのビジョンを持つことはキーになると思います。
もしこれらを持ち合わせているのであれば、道がひらけていくのではないでしょうか。決して楽な道ではありませんし、経済的にも大変になりますから、それも頭に入れおくべきだと思います。

 

-この度はどうもありがとうございました。とても興味深いお話をありがとうございました!

 

-Farhad Mahani
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