朝クラ
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イタリア留学情報ページ『Vissi d’arte, vissi d’amore』Vol.7 ~先輩へのインタビューその5 山田正裕さん~

こんにちは!イタリア・ミラノ留学中の清水優美(しみずゆみ)です。

 

今回のインタビューは、国立音楽大学声楽科オペラ・ソリストコース修了を経て、現在はオーストリア留学を実現した山田正裕さん。

 

 

2018年10月からアントン・ブルックナー音楽大学の大学院修士課程声楽科に在籍しながら、夏のクラシック音楽祭の最高峰「ザルツブルク音楽祭」にウィーン国立歌劇場合唱団として出演。その他にも数々のコンサートに出演し、オーストリアで快進撃を続ける彼に、インタビューしてきました。

 

(《魔笛》パパゲーノ役デビューの時)

 

(山田さんが働くウィーン国立歌劇場)

 

この度はインタビューを引き受けて下さり、ありがとうございます。よろしくお願いします。

 

山田)こちらこそありがとうございます。この朝クラシリーズは最初からよく拝読していたので、まさか今回自分がインタビューされる側になるとは、予想もつきませんでした。とても嬉しいです。

 

それは私も嬉しいです!さて、早速ですが、留学を考えはじめたきっかけはなんですか?

 

山田)大学1年生の秋、学生自主企画オペラ「魔笛」に合唱で出演した際に、監修を務められたテノール 故 経種廉彦 先生から稽古中に『僕の高校の後輩で、世界で活躍するバスの妻屋秀和さんに声も体格もそっくりだな』と言われたんです。後日経種先生から妻屋さんはイタリア留学を経て、20代でドイツの歌劇場で専属歌手として数々のオペラの舞台にソリストとして歌われていたことを聞きました。それから新国立劇場のオペラやNHKニューイヤーオペラコンサートでワルキューレのヴォータン役を歌われているところを聴き、いつか僕も海外で妻屋さんのように歌いたいと思ったのが、一番最初の留学を考えたきっかけです。

 

 

(大学1年生の時に出演したPrimo raggio《魔笛》)

 

オペラ「魔笛」での経種先生のお言葉がきっかけだったのですね!私もこの企画に参加させていただいていましたが、当時から山田さんは身長が高くて、舞台映えしそうだな、と思っていました。留学先を決めるにあたって、なぜ他のヨーロッパの国ではなく、オーストリアを選んだのですか?

 

留学先はドイツ語圏に絞りました。その理由はいつかオペラ歌手という職業で生きていきたいという強い思いがあったからです。ドイツ語圏は各街に劇場があり、劇場で働くアーティースト、スタッフ全員が公務員、会社員という雇用関係にあると、音大在学中に海外に留学されているオペラ歌手の方にお聞きしました。アジア人である以上、ヨーロッパでその座を勝ち取るのはとても難しく、いばらの道ということは承知ですが、人生一度きり、挑戦するなら若いうちと自分に言い聞かせ、大学卒業直前の冬、僕の大好きな作曲家モーツァルトの生きたオーストリア・ザルツブルクという街に興味を持ったのと、ちょうどモーツァルテウム音楽大学に留学している先輩が日本に一時帰国している間、住まいを貸して頂けるということで、ツテもないまま一人渡欧しました。またこれが私の初の海外旅行になりました。滞在して国の慣習、環境に合わないという声も聞きますが、僕は滞在した2週間ウィーン、ザルツブルクに滞在して「なんて住みやすい、音楽に溢れた素敵な街なんだ」とオーストリアに惚れこんだことがきっかけです。

 

 

(ザルツブルクの街並み)

 

(山田さん出演・ザルツブルク音楽祭の劇場の中の様子)

 

大学卒業直前でまずは短期で渡欧してみて、オーストリアの街が自分の肌に合うのか確かめたということですね。本格的な長期留学の準備はいつ頃から始めましたか?準備で大変だったことはなんですか?

 

本格的に始めたのは大学4年生の秋と準備は遅かったと思います。オーストリアは滞在許可(VISA)は書類を一式日本で揃え、現地の役所で個々申請するという形式で、日本での慣れない作業や準備にかなり大変だったと記憶しています。(※国により、書類から申請まで全て日本でする場合もあり)

オーストリアでの申請にはかなり苦労しました。当時は大学も決まっていたのにもかかわらず、様々な事情で一度では申請が通らず、一時帰国をしなければならないこともありました。とてもストレスで、毎日一人で苦しみ、無意識でしたが、日本に帰国した時には体重が8kg減っていました。ただ沢山周りの方に助けられたのが、今自分が充実した留学生活を送れていることに大きく関わっています。

 

留学するにあたって、学校や先生探しはどのようにしましたか?

 

これから留学をする方の中で「合格できるならどこでもいい」という声をちらほら聞きますが、留学生活が充実するものになるか、自分の今後の成長、キャリアにどうプラスになるか、学校、特に先生選びでかなり変わってくると思います。僕は、自分の声種バス、バスバリトンと同じ声種の先生から習いたく、ドイツ語圏、つまりドイツ、オーストリア、スイスの音大のHPからバス、バスバリトンの先生をリストアップし、YouTubeや図書館でCD、DVDなどで全員の演奏を聴き、この先生の歌素敵だな、習ってみたいなと思った先生に直接レッスンのお願いをメールで送りました。大変な作業に思われがちですが、それを可能にしたのも、沢山ある音大の中でもバス、バスバリトンの先生はそもそも少なく、これがソプラノなどとなると、話は変わってくると思います(笑) そこから返信のあった先生と連絡をとり、個人レッスンをして頂き、この先生のもとで自分の歌を磨いていきたいと思った先生が、今師事している先生です。

 

 

(通っているアントン・ブルックナー音楽大学の校舎)

 

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(毎年リンツの教会で行われる大学のプロジェクトのクリスマスコンサートの様子)

 

(演出の先生を囲んで、大学院生によるオペラ重唱コンサート後の集合写真)

 

バス、バリトンの先生が少ないとはいえ、全員の演奏を聴くというのは、中々大変な作業ですよね。さて、様々なステップを経てようやく始まった実際の留学生活。まず留学をして良かった、と思うことを教えてもらえますか?

 

これはまさに今ザルツブルク音楽祭で仕事をしてきて感じたことですが、「音大在学中に憧れていた世界的名歌手と共演できるチャンスが日本より増える」ということです。学部時代から「学生はまず学業優先」と教わってきましたし、それは決して間違いではないと思いますが、「100回の練習より1回の本番」というように、個人的には学生の時から舞台に立つ方が、学校では習わない異次元のこと尽くしの外の現場で学べることが多いと思います。僕の留学しているオーストリアはプロフェッショナルの合唱団がいくつかあり、各劇場、団体でオペラ公演や宗教曲の合唱など様々なプロジェクト、そして正規団員の他に演目ごとに契約して出演するという方法もあります。演目契約団員では学生と並行して舞台で仕事をするという例も全く珍しくなく、学校で基礎を学び、舞台で実践し、プロフェッショナルの稽古場、公演で今まで知らなかった知識、経験を積みお金を頂く。日本では中々経験できない、「学生をしながら歌で仕事をする、舞台で生きる」というサイクルが成り立つので、留学して本当に良かったと感じます。

 

 

(所属するウィーン国立歌劇場合唱団メンバー集合写真、合唱団でザルツブルク音楽祭にも出演)

 

反対に苦労したことや、思うようにいかず悩んだことを教えてください。

 

上で答えた内容だけだと順風満帆で、誰もが留学したら、学生をして劇場で仕事をして、という生活が送れるということは決してなく、毎日苦労続きです。生活面でのコミュニケーション、手続き、そして歌のオーディション等で一番困ったのはドイツ語、「語学」です。話したいけど話せない、理解しているけど理解してないように思われる、話す前にもし話して理解してもらえず気まずい雰囲気になったらどうしよう、こういうことは今でもなお多々あります。半年前に実際にあった話だと某劇場で行われるオペラ公演配役オーディションに推薦頂き、2度にわたり歌唱審査があったのですが、結果歌唱はとても良かった、ただ質疑応答にもっとスムーズに答えることができないとあなたに合格を渡すことができないという、まさに「語学」という壁で大きなチャンスを逃し、とても悔しい思いをしました。

 

 

(《魔笛》パパゲーノ役デビューの時)

 

(《魔笛》のプロダクションのチラシには、山田さんの写真も掲載!)

 

語学の勉強は、継続あるのみですね…日本にいながらでも始められるので、留学先を決めたら取り掛かるのがいいと私も思います。これから留学を考えている後輩にアドバイスをお願いできますか?

 

一番皆さんに伝えたいのは「自分の意志を一番に」そして「敷かれたレールを通るな」ということです。やはり留学というのは精神的にも金銭面的にもひとりの力では中々できない、険しい選択です。ただ私自身留学して感じるのは、音大を卒業し大学院進学、オペラ研究所、そして就職をしながら音楽活動、どの道でも音楽は続けられるし、何が正解で何が間違いかは、これから「自分がどのような出会いに恵まれるか」がカギだと思います。そこから自分が大きく羽ばたける道を留学にするのもよし、日本の大学院進学もよし、決める最終決断はあなたです。留学する意思を先生に伝えたときに「まだ君は若い、大学院を卒業してからでも遅くない」などと反対、または良い顔しない先生も、もちろん人間ですのでそれぞれ意見は分かれると思います。ただ海外の音楽事情、学校事情は年々変化し、大学院入試や劇場のオーディションなどでは年齢制限の若年化などが本格化しつつあります。たった2年が後からなぜもっと早く行かなかったんだと後悔するかもしれません。意見を聞き入れることも大事ですが、まずはしっかり自分の意志を持ち、自分の将来計画をもとに突き進んでいくことを望みます。

 

(リンツ州立劇場 オペレッタ《乞食学生》舞台写真)

 

(オペレッタ《乞食学生》メイク写真)

 

一度きりの人生、後悔がないようにしたいですね。今回は、山田さんの留学のきっかけ、準備、そして実際の留学生活について伺いました。次回は、2019年夏に出演された「ザルツブルク音楽祭」やヨーロッパでのお仕事事情など、インタビューさせていただきます。

 

 

-プロフィール-

山田正裕

国立音楽大学声楽専修卒業、同時にオペラ・ソリストコース修了。同大学卒業演奏会に出演。現在オーストリア、アントン・ブルックナー音楽大学大学院修士課程声楽科在籍。2016年に広島シティオペラ「ドン・ジョヴァンニ」マゼット役でオペラデビュー、また2019年春に「魔笛」パパゲーノ、弁者役で欧州デビューを果たす。同年にウィーン国立歌劇場合唱団と演目契約を結び、ザルツブルク音楽祭に出演。また同年秋よりリンツ州立歌劇場合唱団演目契約メンバーとなり、現在『乞食学生』『イル・トロヴァトーレ』に出演、4月には『パルジファル』に出演予定。

2015年より声楽アンサンブルJスコラーズメンバーとしてBS-TBS「日本名曲アルバム」出演の他、全国各地のコンサートホールや小・中・高等学校の芸術鑑賞会に出演。

18年度ヒロシマスカラシップ・中村音楽給付奨学生。これまでに折河宏治、長谷川顯、山下浩司、Andreas Lebeda、Kurt Azesberger、Robert Holzer、各氏に師事。リンツ在住。

お仕事のご依頼・問い合わせ: masa.bass010515@gmail.com

YouTubeチャンネル: 「ブラボーブラザーズ」https://www.youtube.com/channel/UCs5bXfGNAgMoT5b37e_MWpQ
オーストリア、ウィーンを拠点に活動するYouTuberグループです!普段はそれぞれ音大生、オペラ歌手として活動しています
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