朝クラ
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世界で活躍する音楽家との対談 Vol.4~オルガニスト エマヌエレ・コロゼッティ氏~

こんにちは!イタリア・ミラノ留学中の清水優美(しみずゆみ)です。

今回は、世界で活躍する音楽家との対談シリーズとして、イタリア人オルガニストで、オルガン製作者でもある、エマヌエレ・コロゼッティさんにお話を伺いました。

エマヌエレさんは、北イタリアのパヴィア近くのメーデという小さな村の出身で、幼少期からクラシック音楽が好きだったそう。現在は、アレッサンドリア音楽院で勉強を続けながら、オルガニストとして活動されています。

今回は、エマヌエレさんがオルガニストとして働くガルラスコという町の歴史ある教会にお邪魔して、オルガンとの出会いや、オルガニストとしてのお仕事のことなどをインタビューさせていただきました。

(インタビューは、2021年5月22日に行いました。)

 

-インタビューをお引き受けくださりありがとうございます。初めてオルガニストの方にインタビューをさせていただくので、とてもワクワクしています。早速ですが、オルガンを始めたきっかけをお聞かせください!
こちらこそありがとうございます。私の叔父のマリオも子供の頃からオルガンが好きで、彼が私をこの世界に出会わせてくれました。

 

 

-エマヌエレさんは、パイプオルガンの製作もされるのですよね。
はい、そうです。

 

-(オルガン製作者としても仕事をすることは)オルガニストの世界では普通のことなのですか?
いえ、オルガニストは楽器演奏専門、オルガン製作者(イタリア語でオルガナーリ)は製作専門と、全く別の職業なので、むしろそれぞれが分かり合うことは少ないですね… (笑)
5年間トリノの音楽院でピアノの実技を学んだ後、3年間クレマという街でオルガン製作者として修行をしました。通っていた学校では、楽器製作の素晴らしさを学びつつ、インターンとして仕事をすることもできたのです。

 

 

-クレマでご経験を積まれた後は、今の音楽院に?
はい、2018年からアレッサンドリアの音楽院で(オルガン実技の)勉強を続けることに決めました。来年卒業する予定です。

 

-音楽院には、何人の学生さんがオルガンを学ばれているのですか?
実は、私1人だけなのです!

 

 

-そうなのですね!もう少し大きい街だとどうなのでしょうか?例えばミラノのヴェルディ音楽院など?
それでもおそらく数人だと思いますね。ピアノ専攻と声楽専攻の学生は山ほどいますが!

 

 

-音楽院卒業の後は、どのように進路をお考えなのですか?
あと2年さらに学びを深めるために修士課程に行きたいですね。その後は、教師としての道に進むことも考えています。音楽家としての活動も続けて行きたいですが、今回のコロナの様な状況が再び起こった場合に、演奏の仕事だけでは生活が不安定になりかねないですから。
目標としては、中学校から音楽院まで、どのような形でも教師としての職を見つけることです。教師の仕事であれば、演奏の勉強を続けることもできますしね。一生勉強は続けて行きたいです。

 

-イタリアでは、(教会などに)オルガンがたくさんありますよね。やはりその分、オルガニストの仕事も多いのでは、と考えていました。
そうですね、イタリアやヨーロッパ全体でも、本当に素晴らしくて長い歴史を持ったオルガンが、教会などにたくさんあります。どこの街へ行ってもオルガンがあり、それぞれ製作された時代によって違いがあります。同じ小さな村の中にあるオルガン同士でも、全く違った音が鳴るのですよ!
イタリアに関しては、オルガンに興味を持つ人が少なくなっていること、そして金銭的な面が問題ですね。ほとんどのオルガンは教会の中にありますが、毎日教会に行く人はいませんので、(教会自体も)金銭的に厳しい状態です。
その中で、ミサの演奏の為だけにオルガンを良い状態で保持するのは、多くの司祭さんにとってナンセンスなのです。それよりもまずは、(優先度が高い)教会の建物自体の修復に使わなければならないですよね…。

 

 

-他のヨーロッパの国もイタリアのように厳しい状況なのでしょうか?
周りの多くの人はNOと言いますね。でも、昨年9月にヨーロッパの中で最も美しいオルガンがある街のひとつである、ルクセンブルクのデュドランジュに行ったのですが、現地でオルガニストとして働くイタリア人の友人から聞いた話は違いました。彼は、国は関係なく状況はどこも同じで、それぞれの教会によってオルガンにかけられる予算は違う、と言っていました。(オルガンが)とても良い状態に保たれた教会やコンサートホールがある一方で、全く整っていない状態の場所もあるといった感じです。

 

-製作者や修復者などの状況はどうなのでしょうか?
同じように難しい状況にありますね。でもMascioni, Ruffatti, Tamburini などの大きな会社は、新しいオルガンや修復の受注をよく受けているみたいですね。とはいうものの、新しいオルガンは昨今では多くつくられているとは言えません。新しい教会には、本物のオルガンではなく、電子オルガンが好まれます。
例えば、イタリアのトレンティーノ県には、どの教会にも完璧に整ったドイツスタイルのオルガンがあります。ドイツの文化や伝統的な典礼のためには、オルガンが必要だと言う考えなのです。とは言うものの、すべての司祭さんが理解してくださる訳ではありません。

 

 

-つまりすべての教会で働く方が音楽面を理解されている訳ではないということでしょうか?
そうです。知識が無い場合、無関心な場合、あとはプロフェッショナルに全て任せてしまう場合があります。

 

-もしかしたらナンセンスな考えかもしれないのですが、実は最近観た映画のサウンドトラックにオルガンが使われていて、オルガンという楽器に改めて興味が湧きました。例えば、映画インターステラーのハンス・ジマーの曲の中でもオルガンが使用されていますよね。
そうですね。映画などは、興味を持ってもらう機会を増やす良いきっかけになると思います。そうでないと、今日ではオルガンという楽器は、ニッチなファンのためだけのものになってしまいます。

 

-パリのノートルダム大聖堂の火災があった時も、世界中の多くの人が悲劇的な背景ではありましたが、関心を寄せましたよね。
国際的なオルガニストのコミュニティなどは存在するのですか?
ノートルダム大聖堂のオルガンは、世界で最も美しいオルガンですね。実は、火災によって破損はなく、無傷だったのです。今は、修復作業がされています。私も、友人がノートルダムのオルガンコンサートで演奏する機会に訪ねて行き、実際に弾かせてもらったことがあります。夜の10時30分から深夜1時まで弾きましたが、それはもう、特別な経験になりました。オルガニストのコミュニティは存在しますが、それはおそらく他の全ての音楽家の方達と同じものかと思います。ノートルダムの火災の時は、全てのオルガニストがショックを受けましたが、最近他のフランスの聖堂でも複数火災が起こりました。私たちオルガニストみんなで、一体何が起こっているのだろうか、と話しています。

どのオルガンもそのオルガンがある街に根付いていますし、逆のことも言えます。良い例としては、オルガンの街と言われているフランスのトゥールーズですね。ヨーロッパの中でも美しいオルガンがある街なのです。
いくつかの国は、一部の作曲家にフォーカスしたり、研究がされたりしています。例えば、オランダはバッハにフォーカスしています。
それから、私のある友人は、オルガンのアカデミーがあるスウェーデンのイェーテボリへ勉強しに行っていました。街にはたくさんのオルガンがあるそうです。ルネッサンスの歴史あるオルガン、18世紀、19世紀のもの…本物の楽器に触れながら勉強することができるのです。

 

(ガルラスコの教会内。)

 

-オルガニストとして働く方々は、オルガンという楽器と教会の伝統の影響を受けて、信仰深い方が多いのでしょうか?
いえ、人によると思います。

 

-ところで、エマヌエレさんは、SNSを上手く使われてご自身の活動を発信されています。それだけでなく、地元のローカル紙やテレビなどにもご出演されましたよね。
はい、出来る限り頑張ってみています。発信をしたことによって、今の教会でのオルガニストとしての仕事も見つけることができました。
仕事の依頼があった当時は、自分の地元でオルガニストとして弾いていたのですが、まさかこの教会でのお仕事をいただけるとは思っていませんでした。私に依頼が来るまでには、他のオルガニストの方のところにもお話が行ったみたいです。

 

 

-このエリアに住むことは、仕事をされる上でメリットがあるのでしょうか?それともやはり大きい街の方が良いですか?セルフプロモーションをするにあたってどうなのかお伺いできたら嬉しいです。
まずは、自分の置かれた環境について知ることが大切です。私の町の場合でしたら、農業、特にお米の生産が盛んです。あとは、ここから近いパヴィアという街で、バロック音楽に関しての様々な取り組みがあります。
でも、もっと小さい範囲、ローカルな町や村で考えてみると、そう多く目立ったものがありません。私自身何度もコンサートの提案を試みましたが、あまり反応がよくなかったですね…。
私の出身地であるメーデで、私が製作した新しいオルガンのお披露目をした時、教会が満員になるくらい多くの方が来てくださいました。一方で、昨年10月に行われた別のお披露目には、友人やその繋がりで来てくださった方など30人ほどしか集まりませんでした。このことから、人々は(興味がないのではなく)それぞれ他にやることがあり忙しい(=コンサートは優先順位が低い)のだと分かりました。
もっと大きい街だとしたら、より多くのお客様が来てくださるかもしれません。例えば、ミラノはメーデよりはるかに多い数の教会がありますので、オルガンの数も多いですし、幅広い年代の客層の方に聴いていただくチャンスがありますよね。
ソーシャルメディアを使ってイベントの宣伝をすることは出来なくはないのですが、そう簡単ではありません。今年9月以降からの状況がどうなるか、と様子を伺っています。

 

 

-コロナでさらに音楽家を取り巻く環境は厳しくなりましたよね…。
そうですよね。多くの音楽家が止むを得ず生活のために音楽とは関係のない別の仕事を探さなければなりませんでした。だけれども、大多数の音楽家は(これまで音楽に一生をかけてやって来たため)音楽以外の仕事をするということ自体が、気持ち的に難しいです。残念なことに、(音楽家としての職を失ってしまい)自ら命をたってしまう方もいらっしゃいました。本当に厳しい状況です。私自身は、幸運なことに教会の仕事もありますし、両親からのサポートもあります。ただ、自分が今の状況で35歳、40歳だったとしたら…。

 

-エマヌエレさんは、オルガン製作者としての道もありますよね。
はい、このエリアでいくつかオルガンのメンテナンスや、ピアノの調律などもしています。でも、何度も繰り返すようですが、状況はいつも同じなので、教会はオルガンのための予算がありません。私が働いている教会は珍しいケースです。
大都市では、財団などからまれに支援がいただける場合がありますが、本当に難しいです。

 

-もちろんそうですよね。オルガン界の状況が良く分かりました。今回はインタビューをお引き受けくださり、ありがとうございました!
こちらこそ!これからぜひ実際にオルガンを見にいきましょう!

 

このインタビューの後、エマヌエレさんが普段弾かれている教会のオルガンを見せてくださり、詳しいオルガンの仕組み、実際にオルガンの中の様子(!)などをご説明してくださいました。美しいオルガンの歴史、音色に触れることができ、貴重な体験をさせていただきました。

 

 

(エマヌエレさん ガルラスコの教会の前で)

 

http://www.madonnadellabozzola.org

 

Emanuele Colosetti (エマヌエレ・コロゼッティ)
Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCXMZEGo5sQSChyTgavTgpjg
Facebook: https://www.facebook.com/Organo-V-Mascioni-1939-op-519-106665241550524/