朝クラ
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ベヒシュタイン・ジャパン代表取締役会長 戸塚亮一氏インタビュー 「ピアノに親しむ1,000人が育つ文化構造をつくりたい」

汐留ベヒシュタイン・サロンからほど近い浜松町に、「ピアノカフェ・ベヒシュタイン」がオープン。店内にはベヒシュタインのグランドピアノが設置され、お食事を楽しみながら、ピアノを演奏したり、アーティストと身近に交流したりできる場が誕生します。ピアノカフェ開業の背景には、戸塚氏が37年間のドイツ滞在で体験した音楽に親しむ人の「文化構造」をつくりたいという思いがありました。

 


 

-ピアノカフェ・ベヒシュタインのオープンおめでとうございます!今回ピアノカフェを始められたのはどういった思いからでしょうか?

ピアノに親しむ人のすそ野を広げるため、これまでも様々なことに取り組んできました。ドイツには「1対3対100対1,000という文化構造の法則」というのがあります。これは、1,000人ピアノや音楽に興味を持つ人がいれば、そのうち100人はピアノを習い、すると3人のピアノの先生の生活が成り立ち、1,000人が足を運ぶ1人のピアニストが成り立つという文化構造です。私の目的はこの1,000人を作ることであり、ピアノカフェはその目的のための一つの方法です。コンサートホールの演奏会では、終演後のサイン会などでしか演奏家と交流する場がなく、それもある程度音楽に造詣が深い人でないとなかなか会話もできないという雰囲気がありますが、それははっきり言ってつまらない。もっといろんなレベルの人が楽しめる場を提供したい。

カフェでは、平日はコーヒー1杯を注文すればお店で自由にピアノを弾いていただけますし、オープンまでの時間はピアノのレッスンに使ってもらってもいい、土日はピアニストを招いてお食事を楽しみながら聴けるコンサート等を企画しようと思っています。

 

 

-「1対3対100対1,000の法則」、大変興味深いです。

これは、私が37年間のドイツ滞在で体験したヨーロッパの文化構造です。ヨーロッパでは、一般の人にも音階の成り立ちや理論といった音楽の教養があり、文化として「1,000人」のすそ野が広がっていると感じます。一方日本は「1」(ピアニスト)や「3」(ピアノ教師)といった職業人としての音楽家をつくるための教育が中心になってきましたので、それではいくら演奏家が輩出されたところで音楽に興味をもってコンサートへ行く人が育たないのです。コンサートへ行く人がいなければ、音楽家が職業として成り立ちません。それを示すように、ここ20年ほど、音楽大学の募集人員は減り続けています。

 

-「トツカピアノメソッド」という全くの初心者向けのピアノの演奏法を開発されたそうですが、詳しく教えていただけますか?

「トツカピアノメソッド」は、ピアノの前に座った瞬間、誰でもピアノを弾けるメソッドです。鍵盤の上に立てる奏法譜に書かれている数字を追いかけて鍵盤を押さえるだけで、曲が現れるようになっています。

ずっとピアノに関わっていますが、私自身はピアノを習ったことがありません。習ったことがないからこそ、このような、音楽家が思いつかないことを思いつくのでしょう。

ピアノを始めるには、楽譜が読めなければならない、運指を覚えなければならないなど、曲を弾く以前に覚えることがたくさんあります。特に年を取ってからピアノを始めたいという人は、覚えることが多かったり、右手と左手、5本指をうまく動かすことができなかったりして、曲を弾くまでに挫折してしまうのです。このメソッドを知れば、楽譜が読めなくてもいい。両手の人差し指だけで弾くので、運指も覚えなくていい。両手で2音押さえられるので、簡単な和音が表現できます。通常の方法で半年ほどかかるところが、2~3時間で弾けてしまいます。弾けるようになると、人前で演奏したくなるようで、このメソッドでピアノを覚えた方は、ピアノを始めて2か月、3か月ですぐ発表会に出ます。ピアノは脳の活性化にいいと言いますから、人生100年時代の趣味としてピアノを始めるのにお勧めできる方法です。

 

 

-ピアノは習ったことがないとのことですが、どういった経緯でピアノと出会い、ベヒシュタインに関わることになったのでしょうか?

叔母が声楽家で、戦後焼け残ったピアノがたまたま家にあって、そこへ著名な音楽家の方々が練習にきていました。そういった音楽のご縁もあって、河合楽器に就職して、ピアノのセールスをやっていました。ドイツ語学校へ1か月間ほど留学していた経験から、カワイのドイツ法人立ち上げを担当することになりました。その後カワイを退職したのちもドイツに滞在し、当時の松下電器が製造していた電子楽器や、ピアノ、オーディオ機器等の販売代理店を経営していました。そうしてドイツに滞在していた時、当時のベヒシュタインの社長であったシュルツ氏とご縁があり、日本でベヒシュタインのピアノ販売を一手に担当することになりました。それから都心にも店舗を出して、だんだん日本にベヒシュタインのブランドが浸透してきたかな・・というところです。

 

-ベヒシュタインのピアノはどういった特徴があると思いますか?

一音一音のニュアンスを出しやすいところが特徴だと思います。他社メーカーでは、何千人というお客様を収容できるホールで、端っこの席にも音が届くようにと音量を第一に考えて設計されています。大きな音を出すためにピアノの金属部分の共鳴をうまく利用する工夫が随所に施されているのですが、音が金属的になり、音量に吸収されてタッチによるニュアンスの変化を表現しづらくなっています。

ベヒシュタインのピアノを弾くと、「ピアノが弾き方を教えてくれる」というピアニストの声を沢山聞いています。それが、フランツ・リストはじめ名だたる音楽家に愛された所以だと思います。そういったピアノの音をカフェでも楽しんでいただけたらと思っています。

 

 

-トツカピアノメソッドの開発、カフェの開業、出版とピアノのコミュニティを広げるあらゆる取り組みをされていますが、今後どのようなことにチャレンジしたいとお考えですか?

 1,000人のすそ野を作るという目的のため、いろんな施策を考えています。ピアノカフェの運営ももちろんその一つですが、カフェや汐留のサロンで、プロのピアニストでない方のコンサートもやりたいと考えています。政治家、有名人、スポーツ選手の方で実はピアノを弾けるという方がたくさんいると耳にしますので、そういった方がピアノを弾くとなれば、ふだんピアノを聴かない方も足を運ぶ理由になるのではと思います。他には、大学対抗のピアノチームコンテストも面白そうだと日本初のみならず世界初で実施しました。箱根駅伝ももとは大学陸上部の小さな活動からスタートしたと言いますが、大学対抗となると、学生や卒業生が応援するので盛り上がって、今や国民的なイベントになっています。東京にも東京六大学ピアノ連盟というのがありますから、もっと多くの人が参加し、応援できる形にしたいと考えています。

 数々の構想がある中で、まずはピアノカフェ・ベヒシュタインが東京の「御成門」からスタートしますが、今後ピアノカフェを日本各所へ店舗展開していきたいと考えています。ぜひ、皆さんと一緒にピアノに関する底辺の方たちを増やし、盛り上げていけたらうれしいです。