朝クラ
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クラシック音楽のすそ野を広げる 株式会社ローソンエンタテインメント「ひびクラシック」編集部

「ローチケ」、「HMV」などのサービスで知られるローソンエンタテインメント社が運営するクラシック音楽メディア「ひびクラシック」(略して、「ひびクラ」)。在京オーケストラのコンサートスケジュールが一覧で参照できる「オーケストラカレンダー」や、オーケストラで活躍する音楽家さんへのちょっと変わったインタビューなど、ユニークなコンテンツを毎日配信しています。そんなひびクラの編集部はいったいどんな人たちで、どんな風に作られているのか?まもなく1周年を迎えるひびクラの編集部に直撃インタビューしました。

 

インタビューにお答えいただいたお二人

権田さん(写真左):ひびクラのプロジェクト責任者。こんなにひびクラのことを考えていても、クラシック音楽よりヒップホップが好き。

上杉さん(写真右):もとオーケストラの「中の人」。ひびクラの数々の企画は彼女から生まれているといっても過言ではない!?

 


 

ひびクラ立ち上げの裏話

―ひびクラが始まった経緯を教えてください。

権田:当社事業の中に、コンサートなどイベントチケットを販売する「ローソンチケット」と、CDや本などを販売する「HMV&BOOKS」があり、どちらもクラシック音楽のコンテンツを販売しているのですが、ユーザーの属性が大きく異なっています。HMVの方は、いわゆるコアなクラシックファンの方が多いのに対し、ローソンチケットの方は、ディズニー・オン・クラシックや、シネマコンサートなど、ややポップめのコンサートを好きな層が多い。それが両極端なので、お互いの溝を埋められるようなサービスを立ち上げたいというのがきっかけでした。

また、クラシック業界の方と話していると、ファンが固定化していて、なかなか新しいお客さんが入ってこないことが共通の課題であるとわかりました。この長年の課題に対し、ライブと物販の両軸を持っている会社として、何か貢献できるのではと思ったこともきっかけです。

 

―プロジェクトの立ち上げはかなり時間をかけたとお伺いしています。

権田:もともとローソンチケットと、HMVは別ドメインでサイトを持っていて、その中のコンテンツとするのか、独立した新しいサイトにするのかというところからの議論でした。最終的には、現在のように全く新しいサイトで、新しいイメージで始めるというのが結論。そこからようやく、読者ターゲットや、コンテンツの検討が始まった次第です。

 

―ロゴも特徴的ですね。

権田:今のロゴにたどりつくまでに、デザイナーさんと協力して100通りくらいのパターンを検討しました。はじめは見るからにクラシック調のデザインが出たりしたのですが、親しみやすさを出したかったので、文字のデザインはポップにすることを意識しました。

上杉:文字自体はポップなので、クラシックの上品なイメージにするために、弦楽器をイメージした色を取り入れたり。ひびの「び」と、クラシックの「シ」だと、点のデザインが四角と丸で変化をつけていたり。この辺りは男性陣のこだわりがすごかったですね。

最終的に選考で絞られたロゴデザインたち。

 

権田:ロゴデザインくらいすぐ決まるだろうと思っていたんですが、やりだしたらこだわっちゃいましたね。2か月くらいかかりました。こんなに時間をかけてよかったのか・・・

上杉:でも、時間をかけた分すごく納得感のあるロゴになりましたね。

 

―それだけロゴにこだわったとなると、名称を決めるのも大変だったでしょう。

上杉:「ひびクラシック」という名称は、「響く」と、「日々、クラシック」をかけています。権田:プロジェクトメンバー全員で、それぞれアイデアを出したのですが、人によってイメージがぜんぜん違って。でも、ロゴと同じくこだわって時間をかけてよかったと思います。

 

―ひびクラの立ち上げで苦労したことは?

権田:ひびクラのメインコンテンツの一つが、「オーケストラカレンダー」という、首都圏オーケストラのコンサートスケジュールを一覧で並べて見られるもの。これを、スマートフォンでどう見せるかというデザインを決めるのに大変苦労しました。

上杉:ファンの方は、紙で広げて見ているんですよね。クラシックファンの方にとって、シーズンごとに発表されるオーケストラカレンダーを並べて、どのコンサートに行こうかと考えるのは至福の時間です。でも、オーケストラごとにカレンダーを発表するので、同じ月にどのコンサートがあるのか、行ったり来たりしながら確認しなければいけない。それを、なんとしてもスマホの画面で、簡単に見られるようにしたかったんです。

 

権田:ウェブサイトの制作会社の方は、必ずしもクラシックのファンではないので、クラシックファンがどういう風に情報を見るかというのを理解できなくて。「なんでこんな動きが必要なの?」と疑問に思われることがたくさんありました。(笑)

上杉:一つのオーケストラ団体で多いところで年間約40の主催公演があるので、全部合わせると最大400弱のコンサート情報が掲載されることになります。カレンダー以外でも、ただ記事コンテンツが掲載されるだけでなく、イベント情報やCD情報などどんどん情報が追加されていくので、それを整理して、シンプルに、直感的にわかるサイト構成にするのが大変でした。こちらも苦労した分、いろんな方に「見やすい」といっていただけて嬉しかったですね。

権田:プロジェクトメンバーには、20代から50代までという年齢も幅広いメンバーが集まっているので、いろんな意見を集めながらサイト立ち上げができたのは強みだと思います。

 

企画について

―ひびクラのコンテンツは、読者参加型なのが特徴的ですね。

上杉:「ひびクラ女子リアル育成プロジェクト(※)」は特にそうですね。ひびクラプロジェクトメンバー以外の、クラシック音楽を聴いたことがない新入社員(今は2年目)をスカウトしているので、本当にフレッシュなんです。はじめ声をかけたとき本人も困っていましたね。(笑)

※「ひびクラ女子リアル育成プロジェクト」…クラシック初心者のいつきさん(仮名)が、あれこれ分からないことをクラシックファンの皆さんによるユーザー投票で教えてもらい、その結果を真面目に体験していくという、SNS連動型のリアル育成プロジェクト。(ひびクラシック本文より)

Op.28期末テストの回。テストを無事全問正解で終えて、羽を伸ばしているとのこと。

 

クラシックのお客さんは、「教えたい欲求」があると思っていて。「私、ベートーヴェンの『運命』が聴きたいのだけど、どのCDがいいんだろう」といったら、「それはこのCDがいいよ!」と教えてくれる人がたくさんいるんです。

権田:この企画ではツイッターのアンケート機能をフル活用していますが、うまくコミュニケーションがとれていて面白いですね。

 

―読者さんとの印象的なエピソードはありますか?

上杉:「オケトモ」というオーケストラに所属する演奏家の方々によるリレーインタビュー企画を行っていますが、これには全くクラシックに詳しくない人も興味をもって「こんな面白い人いるんですね」とか、クラシック業界の中でも「この人とあの人がつながってるんだ」とか、そういう驚きがあるらしくて。

インタビューの質問は10個だけですが、クラシック以外の側面から質問をしている点で、インタビューを受ける音楽家の方にも楽しんでいただけているかなと。

キャンペーンでのやりとりも印象に残っています。

キャンペーンのプレゼントとしてコンサートチケットを抽選でプレゼントすることがありますが、それもあえて普段コンサートに行ったことがなさそうな方を選んだりしています。以前、「子どもにオーケストラを聴かせたいがなかなか連れていけない」とコメントされていたお母さんにプレゼントしたところ、すごく喜ばれて、メッセージまでくださいました。

チケット以外に物品のプレゼントのこともあるのですが、そのパッケージもこだわりをもって作っています。ベートーヴェンのTシャツ、キーホルダー、CDを集めた「ベートーヴェンセット」とか。ちょっと変わってますよね。(笑)

 

権田:キャンペーンに限らずすべてに言える事ですが、「ひびクラらしさ」を常に意識して考えています。それがお客様に伝わって、こういったキャンペーンをもっと増やしてほしいという意見も増えてきました。

 

―「ひびクラらしさ」とは?

権田:言葉にするのは難しいですね・・・。

上杉:クラシック関連の他社メディアで、今までなかったものを意識しています。「ポップさ」ともちょっと違うのですが・・・。

権田:プロジェクトメンバーの構成も、「らしさ」に影響しているかもしれません。クラシック音楽メディアは、クラシックに詳しい人たちだけで作るのが当然という認識があると思います。当社では、前にも述べたように知識ゼロの人もいます。

上杉:私はオーケストラのスタッフとして働いた経験もあるのですが、その立場からすると思いもよらない方向から意見が来るんですよ。クラシックってそういう風に見られてるんだと、新しい視点が得られて新鮮ですね。

「(クラシック音楽の)すそ野を広げる」というミッションで始まったメディアなので、「すそ野」のメンバーがいることは、学びにもなってありがたいです。

 

―企画のアイデア出しはどうしていますか?

上杉:アイデア自体は、メンバー全員から出してもらって考えています。それをどう発展させるかというのは、戦略的に考えてつくっています。

「オケトモ」はその代表例といえます。「オケトモ」は、音楽家の方へのリレーインタビュー企画ですが、立ち上げた当初は、「ひびクラ」の知名度がない状態で売り込まなければならないので、どうやったらスターの方々に取材ができるかを一生懸命考えました。そこで考え付いたのが、「知り合いを紹介してもらう」作戦です。最初の一人は読売日本交響楽団の事務局の方にご協力いただき、ソロ・ヴィオラ奏者の鈴木康浩さんをご紹介いただき、それ以降は音楽家によるバトンで取材が続いています。

 

鈴木康浩《読売日本交響楽団》オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

https://hibiclassic.com/special/orchestra/3762/

 

最近では、オケトモの取材に行くと、「質問がおもしろい」「出られてうれしい」「記念になる」「仲間を紹介できるのもうれしい」ととてもうれしい声をいただけるようになりました。インタビューの質問も、事前にたくさん出して、答えやすい質問を選んでいただいているんです。クラシック音楽に関するインタビューはこれまで散々受けられていますが、子供のころのこと、趣味などの話は楽団の冊子の中で答えるのみで、外に出るメディアで答えることは少ないそうです。

特に素晴らしいレビューを取り上げてひびクラに掲載している

 

権田:ユーザーレビューは、毎回すごく勉強になります。HMVで販売するCDや本の紹介をすることは当初の目的だったので、ユーザーレビューを掲載するのは自然な流れでした。HMVにはいろんなジャンルのCDがありますが、クラシックのお客様は他ジャンルの音楽のお客様と比べても一番熱心にレビューを書いてくれるんです。

上杉:レビューを一生懸命書いてくれるという事は、伝えたいという気持ちがあるはず。私たちにとっても、こういったレビューは大変価値のある資産です。これを埋もれさせてはもったいないと感じていました。実際レビューを取り上げられたお客様も、うれしいと言ってくださっていますね。

 

編集部一押しポイント

―ひびクラで、ぜひこれを見てほしい!という一押しポイントを教えてください。

上杉:ひびクラのインスタグラムをぜひアピールさせてください!

インスタグラム:https://www.instagram.com/hibi_classic/

 

ひびクラのウェブメディアが立ち上がる前から、インスタグラムは先行していて、こだわりをもって運用しています。毎月、「クラシックに関する本の特集」「チラシを紹介する特集」「ボックスCDを紹介する特集」などテーマを決めて情報を配信しています。

写真の背景も季節やテーマを意識して、月ごとに統一しています。冬は白い背景に雪だるま、春が来たら桜、夏は浴衣にしよう・・・など。イタリア人指揮者のクラウディオ・アバドのボックスCD紹介をテーマにしたときは、イタリアビールを買い込んで、背景に毎日違うビールを置いていましたね。6月は本の紹介だったのですが、本を持つ手のマニキュアを、表紙の色からとって毎日変えていました。

左からアバド特集/本特集/「蜜蜂と遠雷」キャンペーン

 

権田:細かすぎて誰も気づかないこだわり・・・。(笑)ショップ機能がついてからは、インスタから本やCDへの導線も作れるようになりました。

上杉:今は映画「蜜蜂と遠雷(※)」のキャンペーンを行なっています。

※蜜蜂と遠雷…国際ピアノコンクールが舞台となる小説、「蜜蜂と遠雷」を原作とした映画。

作中で4人のピアニストが登場するのですが、その4人がパーティーをしているイメージです。だんだん食事が進んでいって、最後はデザートに・・・という時間の経過を写真で表現してみました!

インスタグラムは、クラシック音楽のイメージを変えたいと思って運用を始めたんです。従来クラシックファンは比較的男性の年配の方が多い印象ですが、インスタグラムは女性ユーザーが多いので、若い女性にもクラシックを知ってもらいたいなと。それで、写真も女性に好かれそうな、おしゃれさをコンセプトに発信しています。

 

ひびクラの今後

―今後はどんな展開を考えていますか?

権田:会社として、旅行・映画・CD・チケット販売と様々なサービスを提供しているので、「クラシック音楽」を起点にして、それらと連携した企画を作りたいです。クラシック音楽がテーマの旅行、とか。

上杉:編集や企画の面で言えば、クラシック音楽のプラットフォームになるといいなと思っています。「クラシックでこんな面白いことやりたい」と思ったとき、「ひびクラだったら何でもやってくれそう」と想起してもらえる存在になりたいですね。実際、多方面のエンタメコンテンツを持っていますし、様々な企業をつなげるブリッジとしてもお役に立てると思います。実際、ありがたいことに最近企画やキャンペーンのお声掛けが増えています。

また、インタビュー記事では、純粋な音楽雑誌・メディアで取り上げきれないような若手アーティストをひびクラで取り上げて、みなさんにご紹介したいなとも思います。ひびクラを介してクラシック業界へ羽ばたいていく方が増えれば、私たちも本望です。

権田:様々なジャンルのお客様を抱えているという意味では、「クラシック音楽のすそ野を広げる」役割にぴったりだと思っています。今後はその点にもっと注力していきたいですね。

 

―ますます今後の展開が楽しみです!今日はありがとうございました。